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終 章



遠く・・・声が呼んでいた

何処かで聞いたやうなその懐かしい響きに、彼は思わず振り向き・・・そして
         うつつ
その<声>が現実のものでないことに気付いた
        こだま
――死者の呼霊か・・・

小さくそう呟いてから、彼はぼんやりと空を見上げる。

美しかった

蒼く・・・あおく澄み切った空には、雲ひとつない

風が吹いていた

彼を、包むように、守るように・・・或いは――

導く、ように・・・

「遠い、な」

そうつぶやくと、彼はまた、前に向き直る

目指す地は、もう・・・そう、遠くはないはずだ。

だが

行き着けるか・・・

(・・・この身体で・・・)



また、声が響いた
                もっ
今度は、確実に、言の葉を以て

だが、

彼は、もう振り返りはせぬ

その一瞬の時すら惜しい

早く、

早く、

もう、時はないのだから

この身体が動かなくなるまで、時は残り少ない

かの地へ

故郷へ

風の集う、あの里へ




おお・・・い

声が、響く

死者が、呼ぶ

俺の殺したものたちが、早く来いと呼んでいる

まあ、待て

急くな

あと しばらくじゃないか

もう 幾時もしないうち 俺は お前たちのものになる

その時には

俺を思いきり喰らうがいい

どんな苦しみも厭わん

だが 今は

生きている 今だけは

俺の好きなようにさせてくれ

帰るのだ 俺は

あの地へ
かえ
還るのだ 俺は

あの里へ

俺の故郷

俺の里

俺が 居るべき所へ

帰り着くのだから・・・



風が 舞っていた
   とむら
――弔いの舞を

もう そこにはだれも残ってはおらぬ

ただ、風はかなしく舞った

最後の友の

死を以ての帰還を・・・

 祝ったか

 嘆いたか

ただ 風はかなしくうたった
     うた
弔いの詩を




  そこは・・・その昔、風が友とした者たちの住んだ地

  強く優しき者たちが生まれ、育ち、そして旅だった場所

  生を捨て、情を嘲い、冷たく死んでいった者たちの

  最期の安らぎの地













     ここは、風の集う里――――











19870508 AM 03:11 脱稿
BY :AKI TAKATSUGU

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