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LUNATIC DOLL・45

MoonlightShadow




深夜。
静まりかえった郊外の院家屋敷。修羅専用の離れの居間で、三人はアルコール片手に作戦会議を開いていた。
否、単に疲れて呑んでいたということである。

「だからさ、あんたの身体を使わせてもらうわよ。あんたはまだ完全に戻って、、、ないから、向こうともつながってるし、こっちも先刻ヤツと接触したばっかりだし。こんな便利なの道標はないわよ。ちょーっとばっかし痛いかもしれないけど。」
 からん、とグラスをあけてから、美古都の指が哲理を指した。ビシイッと音でも聞こえてきそうな勢いである。
「ううっ、どっちかっていうと、痛いというより気持ち悪い様な」
「文句言わない!他に手だてがあるならそうしてるわよ。あちらに行くにはこれしかないんだから。それともなに?現実の、連中の根城に特攻でもかける?それがいいなら、あんたにそうしてもらうけど?」
「…謹んで遠慮させていただきます。……―――あーもう、勝手にしろ。いくら生身が少ないからって、内臓はまだ自前なんだぞ、人間なんだぞ。物理的問題として、穴ぁ開いたら痛いんだぞ。この眼だって腕だって脚だって傷ついたら生身と同じだけ痛いんだからなっ」
哲理、何を想像したのか、ほぼ半泣き状態である。
「はいはい、判ってるわよ。…なによう、ちょいと触媒にするだけなんだから、何もそのまま溶解するとか潰すとか言ってるわけじゃないのよう」
「…おまえに任せたらそーいうことになりかねん…」
「五月蠅い!心配しなくてもそれは修羅にやってもらうんだから、問題ないでしょ」
「…そか。…―――ってことは…」
と、名前の出た人間の方を見やる。
「―――お前も行くんだな」
「無論だ」
 女ふたりでかしましい会話を交わしていたその隣で、のんびりとそれを聞いていた男は、口の端だけで笑った。
もとより、この一件には院家が関わっている。
哲理とて、それを今更否定するわけではない。
だが―――、ここでエキスパートの手を借りるのは、まるで自分の喧嘩に他人を引っぱりこむ様な気がする。
それに。
トモと利幸のことは、美古都が受けて哲理が突っ込んだことである。
それと、院家の関わりとは、違う次元のことだ。
たとえ目的地が一緒であっても、目的そのものはおそらく、違う。
彼女を呼び戻すのが自分たちの目的ならば
彼女ごとこの事象を切り捨てるのが、彼らだ。
まだ決まってもいない、未来に起こる何かの芽を潰すために。
「…修羅」
うつむいて躊躇いがちに、言う。
「なんだ」
言いたいことは判っているぞ、とでもいうような貌で、彼は先を促す。
「…ここまで世話になってて、迷惑もかけて、その上で頼み事もなんか悪いとは思うんだけど…」
「今にはじまったことではないがな」
やんわりと返されて。う、と言葉を詰まらせてから、それでも続ける。
「わあってる。でも、ここは引けねーんだ。…トモのこと。」
 ここで引いたら女が廃る、もとい、自分が今までやってきたことの意味がなくなる。トモは帰ってこなくてはならない。馬鹿馬鹿しいほどの日常に。自分で作り上げていく、当たり前の幸せに。だから、その為には、奴らのところから取り返すだけでなく―――
思い切って、修羅の目を見据える。
「お前たちに渡すわけには、いかない。」
「いいだろう」
あっさりと、修羅が言った。
「は?」
「いい、と言ったのだ。彼女は好きにするがいい。今回はお嬢とお前を立てよう。…もとより、我らの目的は母胎の抹殺ではない。香月家の因縁を解きほぐし、あの地を浄化し、元来ある形としてあの結界を機能させることだ。それさえ成れば、他のことは些細なことにすぎん。」
「え、いや、だって、その…」
魔に繋がる母胎はそれだけで罪で滅すべしって、ずっと言われ続けて命狙われてる人間がいるんですがー…
「そうだな、確かにそれはそれで問題になるが」
「やー、いや、問題にしてくれなくてもっ」
「それは―――」
口の端だけでなく、貌でにやりと笑って。
お前たちが片を付ける、、、、、、、、、、のだろう?」
はっとして美古都と目を合わせる。
―――そりゃ、それは…
信用しているぞ、、、、、、、、哲理、美古都。これは私の、院家総領、九十九院修羅としての、、、、 、、、、、、、、、判断だからな」
「あ、あ」
「や、そのう」
同時に声をあげて。
「「まっかせなさい!!」」
同時に胸を叩く。
「とーぜんよ。トモと子供さえ無事に取り戻したら、道なんかもうこの美古都ちゃんが燃やし尽くしてあげるわよっっ」
「おう、ついでに私の血で反結界でも作ってミョーな半端もんが寄らんようにもしてやるわっ」
「アンタ馬鹿?んなことしたら、別のとこから目ぇつけられるでしょーがっ」
「ええいうるさい、他に私の特殊技能でできることないやんかっ。お前だけ格好良くすんなっ」
「それより先輩としてちゃんと面倒みるとかご飯おごるとかっ」
「あほっ。お前じゃあるまいし、メシで釣れるかっ」
男そっちのけで言い合いを始めた二人を見て、とうとう修羅はくっくっと声をあげて笑い出した。
本当に、こいつらはおもしろい。
いいだろう。
信用してみせるのも、おもしろい。
いや、本当は、本気で信用したいのだ。
だから。
「いいかげんにしろ、そろそろあの青年が起きてくるぞ。」
こちらも、本気で行くとしよう。

TO BE CONTINUED…


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