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LUNATIC DOLL・34

Magic 2〜interval


後悔――
何度、それを繰り返しただろう。
ここに来て、またそれを重ねる自分の愚かさに打ちのめされながら、哲理は口唇を噛んでいた。
身体を丸めてうずくまる。
克服していた。
いや、しているはずだった――そうだとも。いつもそれをコントロールする術を身につけ、 そして奴らの誘いにも乗ることなく、日々を過ごしていた。性格上、いつも冷静にというわけにはいかない。 すぐ激昂する方だし、涙もろいし、わけもなく苛々もする。それでも、封を破るような事はなかった。 それを破る事は自分のプライドが許さなかったからだ。我を失うこと、闇に身を任せる甘美―― それを許さない事こそ、自分自身のアイデンティティだと思ってきた。というより、 それにすがらなければ生きてはこれなかった。そして昔、それを無理矢理にこじ開けられて以来、 その封はさらに固く、さらに強固になったはずだった。
はずだった。
はず――
その想いの、なんと脆いことよ。
――くっくくくく
闇の中で、自嘲気味に嗤う。
――あの時、私は甘美に身をゆだねていたではないか。
敦彦の身体を潰すあの感触に、酔いしれていたではないか。
奴の腕を折る、あの音。
肉をちぎる、あの手応え。
寸分も人と変わらぬ、あの、すさまじい血の芳香――
――はっ…
それもこれもが、まだ自分の身体に余韻を残している。
その、快感
なんてことだよ、このオレが――
まるで十代の頃に戻った様な言葉が、哲理の裡に浮かんでくる。
情けねえ――
情けねえ、情けねえ、情けねえ、情けねえ、情けねえ、情けねえ、情けねえ、情けねえ、情けねえ。
死にたいくらいに…
だが、死ねない。
自分では、決して。
そして、自分を殺せるただひとりの人物に、オレは何をしようとした――?
恵――
その命を喰らい、それを闇に染めようとしたんじゃないか。
そうだ、判っている。オレはあいつの命が欲しいんだ。判っている。私はあれの命が、魂が欲しいんだ。 それを汚し、貪り、共に闇の中で快楽に浸る事を望んでいる――
そんなことは判っている
だけど――それだけはできない――
それをしたら、本当に、私はもう戻れなくなってしまう…
敦彦、てめえの言った通りだよ。あいつは私のくびき――私の最後の砦。
それに、私はなにをした?
どうして――
どうして"あの時"、死ねなかったのか。
――自分がそれを拒んだからだ。
死んだ方が良かったのだ。
――そうだとも、その通りさ。そうすれば今回の様な事ににはならなかった。
  じゃあ、どうして生き延びた。
――それが自分の断罪だと思ったからだ。生きて――たとえ
自分が握り潰したたくさんのいのちが元に戻らなくても――
――それでも、生き続ける事が
  ならば、それを続けるしかない。
――判ってる、判ってても――私は…私はまた同じことを繰り返す。昨日は無事だった。今日は良かった。 でも、明日は?その次は?その先は?そして――そしていつか、あいつが天命を全うしたら――?
それでも、続けるのだろう。自ら生きることを。
――そうだ、そうだよ。判ってる。それが私の選んだ途。選んだ生き方だ。だけど――だけど、 私は後悔を繰り返す。普通の、なんでもない事じゃない、人の命を奪って、人の魂を糧にして、そして生きながらえる。 その事にやり直しはきかない。それが判っているはずじゃないか。――封を破ればどうなるか。元に戻れなかったどうなるか。 ずっと昔――ほんの何年か前、私が正気を取り戻すまでに、いったい何人が死んだ?何人この手にかけた?何人の肉を喰らい、血をすすり、 その身体と魂を貪った?それが判っているのに、私はここでのうのうと生きている。院家の守護のもと、評議会には見て見ぬ振りをされ、 何気なく、なんでもなく、平凡な、許されないはずの人生を謳歌してる――最低だよ。
  それが断罪なのだろう。
――そうだとも。だけど、私はまたやっちまったんだよ。そして思ったんだもん。お笑いだよ。 "ここで封を破らなきゃ死んじまう、恵を助けられない"そうだとも――もしあそこで修羅が来なかったら、 もしあそこで恵に意識がなかったら、私は、たとえ敦彦を殺ったとしても、結局恵を喰ってただろうさ。 思う存分、心ゆくまで――本当に、ずっと、心の底でそうしたがってる通りに――
  だが、それを拒んだのは自分自身だ。
――そうだよ、どうしてだか判るか?知っているからだよ。どうせあいつの命を喰らっても、魂を喰らっても、 本当に欲しいものは手に入らないって事を。自分で判ってるんだよ。むかつくくらいに。 そんなことじゃ、あいつは手に入らない――そんな事じゃ――
  それでも…
もう、いい。なにも考えたくない。どうせ私はしようのない人間なんだ。人間だって?果たしてそう言えるかどうか――言えるわけがないよな。 死ねないなんて――そしてそれを選んだなんて…――そうだよ。私はもう戻りたくはない。 たとえどれほど快感だったとしても…あの日には戻りたくないんだ。だけど私はこういう存在でしかない。 まわりに迷惑をかけて、まわりを傷つけ、そして落ち込む。なんて陳腐な、なんて情けない奴だろうよ。私は――どうしたらいいんだ?私は。 判ってる。落ち込みから立ち上がって、這い上がっていつもやってる様に馬鹿なことして、笑って、 一生懸命に生きて――話して、そして――
だけど、今は駄目だ。
馬鹿だとののしられても、陳腐だと吐き捨てられてもいい。
私のこの苦しみなんか、取るに足りないものだと判ってる、でも――
私はどうしたらいい?
誰か、私を滅茶苦茶にしてくれよ。
私を壊してくれよ。
殺してくれてもいい――殺せるものならば。
そうだよ。もう、なんでもいいんだ。奴らでもかまわない。そりゃ、戻りたくない――だけど、私にはもう刻印が残されてる―― いっそ爺様でも敦彦でもかまわないんだ。あいつにぐしゃぐしゃにされてもいい、喰われても、奴に貫かれてもいい――昔の様に忘れていられるなら――この私を消してくれるなら――
――!
出来るわけないよ。
出来ねえって。
それって、一番望んでないことじゃねえ?
――オレって、馬鹿。

判ってるんだよ。どうすればいいのか。
でも、それが出来ない。
なんでだ?
そんなに弱かったっけ?
そうだよ。弱いんだよ、私は。――そんなこと、せんも承知だろ。
だから堕ちたんだろ。
だから生き延びてるんだろ。
だから――まだ人間やってるんだよなあ。

いいじゃん。
情けなくて、いいじゃん。
それでも、忘れなければ――それは断罪だろ。
償いだろ。
それが、本当は断罪にも償いにもなってない事を知ってても――それしか方法がないのなら――
生きてゆくしかないんだから――



後悔――

TO BE CONTINUED…


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