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LUNATIC DOLL・29

Time Again 2


「哲理!ねえ開けてよ!恵ちゃん!恵ちゃん!ねえ!哲理ぃ!」
どんどん、どんどん
美古都がドアを叩く。その手が赤く染まり、それでも叩く。涙が溢れ、それが彼女の可愛らしい顔をゆがませる。
美古都にはPKの能力はない――あったとしても、それは身体を使って行う程度の力でしかない。扉を壊すには――それには、美古都の一番の得物。それは炎。だがしかし――
「どけ!」
後ろから声が聞こえて振り返ると、怒りをその顔に張り付かせた男が立っていた。
「――修羅…」
すがるようにそう言って、美古都はその身体に抱きついた。
「おねがい――開けて、ここを開けて――恵ちゃんが――哲理が――哲理が逝っちゃう!」
「判っている」
修羅は美古都のそう言うと、その身体を外して言った。
扉の前に立ち、じっとそれを見つめる。ゆっくりとノブに手をかけ、それを引く――。
ばりっ。
何かが壊れる音がする。
そのまま、修羅は扉を引いてゆく――扉は、ばりばりと音を立てて――まるで壁紙を外すように――引き剥がされてゆく。
その隙間から、小さなものたちが漏れだしてゆく。なかは高密度の瘴気。魔物の饗宴の真っ最中。
漏れだしたものたちが、修羅の身体にまとわりつき、そして悲鳴をあげて消えてゆく。
やがて扉はすっかり引きちぎられ、修羅はそれを壁にたてかけた。
「――後は頼む――夜地」
「――は」
いつのまにか――そこに人が立っていた。修羅の秘書であるあの男…大地と同じ顔の、でもまったくちがう貌の人間。
「さあ、美古都さま…ここは危ない。こちらへ…」
「いや」
「駄目です。今は――若が哲理さまをお連れします。」
「でも――でも、哲理が…恵ちゃんも…」
「御免」
夜地の手刀が美古都の首に当たる。――そして、美古都は落ちた。



「お邪魔したかな」
リビングに入ってきて、修羅はそう言った。
そこには、血にまみれて立っている2匹の魔物。
「――無粋だな。院家の総領殿――手出しは無用と言ったはずだ」
敦彦が笑みで応える。哲理は修羅の姿を見て露骨に嫌そうな表情をかくさない。
「今、いいとこなんだぜ――修羅、もうちょっと遊ばせろ」
「駄目だ」
「意地が悪いな――それとも」
とん、と哲理は宙を舞い、修羅の前に浮かぶ。
「お前が遊んでくれるのか?」
「――『おいた』はいい加減にしろ」
修羅の貌は厳しい。
「つまんないよ――そうだな、お前ならいいかもしれないのに。」
そう言って、哲理は修羅の頬に手をすべらす。
「――お前の血は赤いから…きっと美味いな…」
「駄目だと言った――お前を殺すことは私には出来ない。だからやめろ」
くすくすと、哲理が嗤う。
「だから良いんじゃないか。壊してもなかなかしぶといし――それに壊れたらもう戻らない…」
そしてそのこうべを抱きしめる。
「最高じゃないか」
「駄目だ、哲理――」
ゆっくりと、その腕を押しのける。
「こちらが先約なのでね――玖亥殿」
敦彦の方を見やる。
「ここは引いていただこう――もし嫌なら、哲理と私、2人を同時に相手にすることになるが――如何か?」
「どうやら幕の時間のようだ」
うすく微笑んで、敦彦は言った。
「さすがに私もそこまでは酔狂になれなくてね――取り敢えずの目的は達した」
「逃げるのか?敦彦」
不服そうに哲理が言う。
「折角、のってきたのにさ」
「――機会はまたあるだろう…お前さえその気になれば」
「なかなか大変なんだぜ――これでも」
肩をすくめる。
「普段は良い子にしてるしな――かと言って、お前らのトコにいくのは面倒だし」
「来れば良い――いつでも。あの母胎は私の元にある」
「そう言えば――」
哲理の貌がくもった。
「あの子に手を出すのはよせ。私が遊んでやるから」
「駄目だ――もう遅い」
くすりと嗤う。
「――母胎はいただいた。さらばだ。哲理、院家の総領殿」
そうして――
敦彦の身体は消え失せた。そこに黒い風を残して。
「ちっ」
舌打ちして、哲理は床に降りる。そのままベランダへ歩いてゆく。血を流して倒れたままの恵を抱え、それを抱きしめる。
他のどんなものよりも大切に。
「――勿体ない…こんなに流しちゃって」
血でぐっしょりと濡れた服を見て、面白くなさそうにつぶやく。
「――それも敦彦なんかに」
そっと…、その傷跡に触れ、そこからまだ流れようとする血に触れる。手に着いた血を愛おしそうに眺め、それを自らの口唇にやる。
「駄目だよ――恵」
ささやく。
「ほら、戻っておいで」
耳元に。
「――お前の命は私が奪うんだから」
抱きしめたそのかいなに、恵の血と生気が吸われてゆく
う――とうめいて、恵の身が動いた。瞬間、哲理の顔がこわばった。
「――さと…り――」
うすく、恵が目をあける。苦悶の表情――
「目が覚めた?」
「――お前――おまえ…なのか…」
「そうだよ。私だよ――駄目じゃないか…こんなにやられて――私が愉しむ事ができなくなっちゃう」
「さとり――駄目…だ――帰って――こい…」
「私は私だよ。ここにいる」
「駄目だ――お前は――まだ…起きろ…」
「どうして?…折角こうしていられるのに」
「――駄目だ…起きろ――でないと――ぶっ…叩く・ぞ…」
「無理しないでいいのに――もう残り少なくなってる…」
ため息をつく。
「私…は――いやだ――ぞ――」
「だって仕方ないじゃん。このままだと、お前、死んじゃうよ?」
「――それ…でも――」
恵はそのまま、震える右手をあげた。血にまみれてぎこちなく動く手が、哲理の顔をなぞり、その身体を動かす。手が、勢いをなくしたまま、哲理の顔にぱちんと当たった。
「――私の…――」
「――恵?」
はっ――としたように、哲理が目を見開く。
恵の手が落ちて、その身体から力が抜けた。
「恵!しっかりしろ!恵!恵!」
突然正気に戻ったように――哲理は狂ったように叫んだ。
「ごめん!――恵、頼む、目をあけろ!しっかり――」
「貸せ」
後ろから修羅が手を伸ばした――瞬間、哲理は恵を離すまいと抱きしめ…そして泣きそうに言った。
「――助けてくれ、修羅――こいつが…こいつが逝ったら――私は…」
ぱしん、と修羅の平手が哲理の頬を打つ。
「修羅あ」
「しっかりしろ――彼女はこんな事では死なない――行くぞ」
「う…うう…」
「――泣くのは後にしろ。」
厳しく言うと、恵を哲理から奪い取り、軽々と抱き上げた。片手で哲理を立たせる。
部屋に入ると、夜地が美古都を抱きかかえて待っていた。修羅がうなずくと、軽く頭をさげる。
「や――ち…」
顔をぐしゃぐしゃにして、哲理が言った。
「失礼します――哲理さま。」
「恵は――恵は…美古都は…」
「気を失っておられるだけです。失礼だとは思いましたが、なかに入られるというので、わたくしが」
「無事…なんだね」
「はい――それよりも、このままでは危ない。こちらへおはやく。安全な場所へお連れします。――若」
修羅がうなずく。
「用意はできているな」
「御意」
頭を垂れて部屋をでてゆく。玄関の外、すぐのところに、2,3人だけ入れるくらいの円陣がひかれている。 まわりに何人かの男たちが控え、修羅はそれをつぶやいた。
「始末を頼む」
「はっ」
恵を抱いた修羅、哲理、そして美古都を抱いた夜地が円陣へ入る。――そして
次の瞬間、そこにその姿は無かった。

TO BE CONTINUED…


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