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LUNATIC DOLL・22

RAIN 3


雨の夜は視界が悪い。車のヘッドライトがフロントガラスの水滴に反射して、まるでにじんだ涙のようだ。 恵の車に乗り込んだ美古都は、ぼおっとそれを見つめながらつぶやいた。
「ねえ、恵ちゃん。そんなに哲理が可愛い?」
「はあっ?」
信号は赤。思わず車を急停車させる。ブレーキを踏んだ体が前にのめる。美古都も同様だ。
「なに言ってんの、おまえ」
「だってそうとしか考えられないもんね。トシに電話かけてきたの、あの馬鹿だったしさあ。だから私、ホントは あそこに行くのどうしようか悩んだんだもん」
「あいつと喧嘩でもしてるのか」
それには答えず、美古都は続ける。
「恵ちゃんがそんなに過保護な事するとは思えないし――考えられる事はひとつよね。つまり、 "連中"が関係してるんだ――じゃあ、この間の新天町の事件もそうなのかな」
「なんでそうなるの」
「だって恵ちゃん結構意固地だもん。」
「おまえに言われたくないね。――やっぱり喧嘩してるんだな」
「――私にだってさあ、意地というものがあるのですよ。プライドもね。なんにも出来ないだの、トラブルメーカーだのって 言われたくない人には言われたくないの。そーゆーことよ。」
「おまえねえ…」
ふう、と息をつく。あくまで哲理という言葉を話さないのだが、誰の事を話しているのかは一目瞭然というやつだ。 信号が変わって車が動き出す。恵がつぶやく。
「面倒はまずいんだよ」
「――うん」
「おまえ…――やっぱなんか首、突っ込んでるの」
「さあねえ」
「判ってるよな。――私の言いたいことは」
「どうでしょ」
「あのなあ…」
またぞろ説教を始めようとする恵を遮って、美古都が口を開く。
「私、自分が可愛いもん。だけど引けない時もあるもん。」
口を尖らせながら言う。
「でもやっぱり自分が可愛いから、危ないことにはなるべく近寄りたくはないもん」
「だから教えてほしいわけ?」
「――…」
トモのことを――美古都がなにかに首を突っ込んでいる、というその事を認めれば…そしてそれを直接聞けば、そのとき恵は 黙っているわけにはいかない。自分は公職にある。立場上見過ごすわけにはいかないのだ。でも――と、恵は考える。こいつ…美古都に「やめなさい」と言ったところで、 それを聞くような女ではないことは、自分たちが一番良く知っている。どうせ言うのだ。――危ないかそうでないか、 さわってみなきゃ判らないじゃん――と。
仕方がない。
ため息をつく。そしてちょっと笑う。
「…で?」
「え」
「――誰に頼まれたの」
「…――」
「言いたくなきゃ良いよ。ただ私は、おまえさんが何を頼まれたのかは聞いてないんだけどね」
「…え?」
「トモな、たぶん――まだ不確定だけど、危ないと思う」
「危ないって…ちょっと、恵ちゃん、そんなこと…」
美古都が目を見開く。それを見ないような顔のまま、恵は続ける。
「どう危ないのかは言えないし、ま、まだはっきり判ってないからね。だけど注意は必要だ――トシには言えないしな。あいつの事だ。 おたおたするのが落ちだろ」
「なんで――…」
「だからまあ…まずい事になる前になんとかしたいと思ってるわけよ。私は。哲理はまあ、しゃあないな。 あいつもどうにかこうにか動くつもりだろうけど、そうはいかない。お前さんよりもっと悪い」
そして苦笑。
「まあ、どちらもじっと動かないでいてくれる方が、仕事だと割り切れて助かるんだけどね。」
車が止まる。美古都が、じっと恵を見る。
「約束しな、美古都。絶対に危ない橋は渡らないこと――身の危険を感じたらすぐに報せてくること――そしてもし…」
「――"あいつら"の臭いがしたら、すぐに引くこと?」
「そういうこと。ついでに言うと、哲理にもなるべく知らせるな。あいつはこっちでガードする。」
「…まあ、内側からやられたんじゃ、たまんないもんね…」
「それは禁句」
ちょっと怒った顔をしてみせて。
「うん」
「お前が何をどこでどうしようが、PSYとしての力を出さない限り自由だけど、もし――相手を潰すなり、上げるなりする必要性が出たら、ちゃんと私に報告しな」
「えー、でも…」
「それが条件。お前にそこまでする権利はない。そこまで私は甘くない」
十分甘いと思う、――と口に出さずに、美古都はつぶやく。
「判った、ありがと」
「うん…じゃあ、気をつけて帰れよ」
すでに車は美古都の家の前にきている。
「――恵ちゃんもね、お仕事がんばって」
「ありがとう。――ホント、気をつけろよ」
「うん」
車が走り出す。――そして恵は仕事へ戻ってゆく。
走り去ってゆく車のライトを見つめながら、美古都はほんのちょっとだけ、恵に感謝していた。

TO BE CONTINUED…


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