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LUNATIC DOLL・12

Misty Lady


腹が立つ。むかつく。我慢できない。イライラする。許せない。
なんでこうなるのだ。なんだああいう態度しかとれないのだ。…話を聞くこともしないで、ただダメ、 ダメ、ダメ、駄目…ただひたすら駄目。そんなのって無いじゃない。
美古都はぶつぶつつぶやきながら、夜の街を歩いていた。
自然、顔は険しくなり、足取りはずんずんと進む。
確かにこの話は危険が伴うかもしれない。用心は必要だし、…それに、他人事だと割り切れば、 役所に行くことを進めるなりなんなりすればいいし、第一、それでかまわないのなら、恵に相談 すればいいことなのだ。でも、相談されたのは自分だ。それと哲理。指名なのだ。役所にもどこ にも知られるわけにはいかない――だから相談してきたのだ。だいたい、ホントに妖魔連中の 仕業かどうかも判っていないのだ…せめてそれが判るまで付き合ったっていいではないか。
(お金だけで動いているんじゃないんだからねっ)
確かに50万は魅力的だ。だけどそれだけで、危ない橋を渡るわけがない。
(判ってるくせに!)
自分がこういう力をもって生まれついたこと――それで苦しんだことも、特をしたこともある。だが 差し引けば、マイナスの面が大きいのは間違いない。だからと言って力の封印を望んだことは なかった。そうすればどんなに楽かと思ったこともある。その機会もあった。それでも――それでも そうしなかったのは、自分のその力に、存在に、確かに理由があるからだと思っているからだ。
別に修羅たちのように妖魔を滅ぼそうとか――美古都にとってはそれは、 害を為さなければただの害虫のようなものだ――正義を行おうとか――それほど大仰なことを考えているわけではない。 でもそこに、目の前に困っている人がいて、助けを求めていて――それなのに「私には関係ありません」 だの「警察に行って下さい」だのは言わないだろう。それはむしろ哲理の方がずっと判っているはずだ。それなのに――
確かに自分は公認サイキックではない。だから何だというのだ。公認と名が付き、 そのような仕事をしている連中にも、どうしようもないのはたくさん居る。利幸はそういう輩が信用できないのだ。 だから美古都を頼った。――秘密を守るために。友美を守るために。それのどこがいけない?
哲理は言うだろう。きっと。「お前が心配だ」と。そうだろう。美古都は今まで事件にかかわる度に 色々な目にあった。ひどい怪我をしたこともある。命の危険を感じたことも一度や二度ではない。
(でも、そのたびにあんたが助けてくれたじゃない――)
そして美古都も何度も哲理の命を救った。二人がパートナーだったからだ。
美古都は馬鹿ではない。自分だけで解決できる事件と、そうでないものの見分けは付く。
今度の件だって、ざっと見ただけなら――とは言え、まだしっかりと調査したわけではないのだが ――自分だけでどうにかなると踏んだ。それでも哲理に協力を求めたのは、この自分のなかに ある漠然とした不安――予知のような――のせいだ。そして、哲理に心配をかけないために。 哲理は今でも昔のことを気にしている――美古都のせいで失ったもの。そして美古都が哲理の せいで失ったもののことを。だから、こんな仕事をするときは、哲理に話す。それは美古都のなか にあるひとつの決め事だ。もし哲理がそれをダメだと言っても、自分はやるだろうと思っている。
今回のように…だ。
(も、いい)
あてにしていなかったと言えば嘘になる。普通の調査だって、ひとりと二人では大きな差がある。
まして、もしこれが妖魔に関する事件なら――尚更だ。だが…
(もう、知らない)
美古都は決めてしまった。この事件、哲理の手は借りない。元々自分だけで充分だと踏んだのだ。
今更どうと言うことはない。
(見事解決して…ほらごらんなさい、大したことじゃなかったじゃないのって言ってやるんだから)
苦笑した哲理の顔が目に浮かぶ。
(まいったなあ…。結局やったのか)
そんなセリフを言わせてやるのだ。
(そうよ、だからあんたは心配しなくていいの。私だって物事の判断はつくわ)
そう言ってやる。
それでも――心の中にわき上がる不安。これは何なのだろう。自分の力に対する不安なのか――
それとも、何かの予知なのか――
(見ててごらんなさいよ)
哲理に文句は言わせない。そしてもう、心配もさせてやらない。もう子供ではないのだ。
怒りと不安がないまぜになったまま…美古都は家路を急いでいた。




「結局、こだわってんのは私の方なんだよな」
修羅と二人で入ったカクテルバーで、哲理はつぶやいた。
「それは判るな。――私でも」
珍しく、修羅が相づちをうつ。
「んで、どっかでね、危なっかしいままでいて欲しいと思ってんの。私に甘えて―― 私を頼って欲しいって。だから時々、ああいう風に自分で段取りしてるあいつを見るとさ、 なんかむかついちゃってさ」
「甘えているんだな」
「え?」
「お前の方がお嬢に甘えている、と言ったのさ。お嬢は甘えることで、お前をあやしているわけだ」
「そーなのかな」
「そうだ」
「…かもしれん。わしさあ、前にあいつの大事な人、殺しちゃったじゃん…まあ、 仕方なかったとは思うし、他に手の打ちようもなかったけど――それも、あいつの力使ってだったから ――だからなんか、どうも、あいつの面倒見なきゃいけないような気がしてるわけよ。でもさ、ホントは… あれでも一応、一人前の女なんだよね。わしが面倒見る必要なんかない」
独り言のように言う。
「判ってるんだけど…なんかダメなんだよなあ。やっぱ、わし、あの17の時から全然成長してないや」
「だな」
「うん。…他の連中はさ、いいわけよ――でも、あいつの場合、体調とかストレートに伝わるじゃん。 感情も伝染するし…あいつが辛かったり、きつかったりすると、マジで私もそうなわけよ。 向こうもそうだしさ。だから余計にそう思っちゃうんだよね。」
「それは仕方なかろう――お前達は繋がっている」
そうなのだ、と哲理は思う。美古都よりも愛するもの――大切なものはある。しかし、 何故か哲理にとって美古都は特別な存在なのだ。
「だから本当は、あいつが軽々しく適当に何かを引き受けてないってことくらいは判る―― 結局聞かないままだったけどさ。それなりに考えて決めたんだと思うよ。だけど――なんかこう、 説教したくなるわけよ。あいつの顔見てると」
「お嬢にとってはたまらんだろう」
「だろうね――せめて話くらい聞いてやりゃ良かった」
「なら、電話でもしたらどうだ」
「ダメダメ」
と、肩をすくめる。
「私の声を聞いたら即、切るに決まってるじゃん。あいつ、そーいうとこ、徹底してんのよ」
「なるほどな」
「…あーあ。気が重いや」
くっくと修羅が笑った。
「なんだよ」
「いや――まあ、せいぜい落ち込むといい。そろそろ子離れも必要だろう」
「なんだよ、それ」
「甘えてもらえない辛さを判るいいチャンスだという事だ。これでお嬢が見事事件を解決して見ろ。 ――お前はまた落ち込むな。」
「…だなあ」
(まあ、それはないだろうが…な)
と――修羅は心の中でつぶやいた。彼は知っている。美古都の受けた話も、哲理が関わってしまった ことも――それは二人の道がいずれ交差するということだ。何もなければ…そして、自分がこの事件に 介入さえしなければ。だが、そうはいかない。これは彼自身が片づけなければならないことだ。そして もしかすると――いや、間違いなく『奴ら』も介入している。ほってはおけない。哲理のためにも。
「仕方ないよね。…しばらくゆーうつな気分で過ごすか」
「忙しいのだろう、そうそう浸るわけにもいくまい。それに土曜の夜には逢うのだろう?」
「そうだった!」
と、哲理が手をたたく。
「そーじゃん、さっすが修羅。そーだよねえ。…その頃までには機嫌なおしてくれてるかなあ」
「それはわからんが――まあ、それまでになんとかなだめる方法でも考えて置くんだな」
「そーしよう…けど、修羅、お前さ、もしかして美古都の話、なんだかわかってんじゃないの?」
「さあな」
また微笑んで、修羅は手元のグラスをあけた。
「なんだよー。知ってるんなら教えろよ」
「そういうわけにはいかないな。…お前がうじうじしているのを見るのは愉しい」
「ひでえ」
「とんがるな。――そのうち、ぶつかる」
「え?」
「お前達の繋がりを甘く見ない方が良い。…物事には不思議に集結することもある。」
はあ?と哲理は首をひねる。
「あいかわらず何言ってんのか判らない奴だね」
「いいのさ。私は――それで」
言って修羅は手をあげた。通りかかったウエイターが立ち止まる。オーダーを言ってから
彼はまた笑った。
「もういいだろう――せいぜいうじうじしているといい。それより、グラスが空だぞ?」
ふう、と息をついて、哲理は苦笑した。
「じゃ、もう一杯」

TO BE CONTINUED…


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